「下手くそめ! もっとちゃんと狙えよ! 肉が削げるだろうが!」
大人の男に押さえ付けられた左腕に、鉈が叩き付けられる。一度では骨を断てぬから、何度も何度も振り下ろされ、その度に硬い音が広場に響く。
「テメエがしっかり押さえてねえからじゃねえの!? ったく、骨が硬えんだよこいつ!」
何度目かの振り下ろしの後、男は鉈を放り出して座り込んだ。私はそれを目で追う。
「割に合わねえよ。俺たちには何の褒美もねえ。毎日毎日、腕なり足なり、もぎってやってるのによ」
「売った銭は全部爺婆が持ってくからなあ。鬼の肉を欲しがる奴らなんて、どうせ金持ちなんだろうぜ。なのに一番働いてる俺らには何もないなんて不公平だぜ」
男が切り取ったばかりの右腕を手に取った。私の右腕だ。
「こんなもんを欲しがる気が知れねえよ。食うのか、飾るのか。おい、鬼。テメエは知ってるのかよ。ああ、舌は切り取ったんだっけ。でも、どうせまた生えてくるんだろ。鬼ってのは便利だよな。腹減ったらテメエの肉食えばいいんだろ。俺たち人間の気も知らねえでよ」
人間の気など知ったことではない。人間だって、腹が減ったら同族を食うのだろう。鬼はそんなことはしない。我ら鬼にとって、同族は敬うべき存在なのだ。裏切ることなど断じてない。
だからきっと、リョユウは助けに来てくれる。私をここに置き去りにしたのだって、必ず何かの理由があるはずなのだから。それまで私は苦痛と屈辱に耐えてやるのだ。
「調子はいかがですか」
突然、春風のような声色が耳に入ってきた。軽やかで、鈴の転がるような声だ。ああ、待ちかねたぞリョユウ!
「あっ、青鬼のお嬢!」
男たちが慌てたようにかしずいた。
「お構いなく。——まだ生きていますね。さすがはユウヒ。片角でもこの生命力とは、恐れ入ります」
「——!」
舌を切り取られ、喉を潰された私に声は出せない。再生には少しだけ時間が掛かるだろう。
リョユウが地にひれ伏す私に、薄く笑いかけた。今まで見たことのないほど、冷たく、そして美しい——。
「知っていますか。鬼の角は、肉や骨よりもずっと高値で取引されるのですよ」
何を、言っている?
「本当ですか!」
「ええ。しばらく遊んで暮らせるでしょう」
リョユウのその言葉を聞いて、男たちは言葉を失った。その代わり、血走った目が私を捉える。
欲にまみれた目——それが、頭の角に注がれている。
「——! ——!」
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ! 角だけは嫌だ! これがなくなったら、もう鬼でいられなくなってしまう。なくなった手足も、声も戻らなくなってしまう。それは死よりも恐ろしい。助けて、リョユウ!
助けを求めても、盟友は私に背を向けて広場を去っていく。
男たちの手が、乱暴に私の角を掴んだ。
著:獏宮本 画:あらみ